繊維産業は19世紀末以降、日本の産業発展の牽引力となり、大阪は20世紀はじ
め「東洋のマンチェスター」と呼ばれていた。先進国イギリスから紡績技術を
導入し、綿紡績を中心とした工業都市に発展した。1920年代には各メーカーと
もレーヨンの生産を開始した。日本で初めてナイロンを独自開発したメーカー
も大阪に現れた。第2次世界大戦後もポリエステル、アクリルといった合成繊
維の工業化にいち早く成功し、世界の繊維産業をリードした。
しかし2度にわたる石油ショックで合繊の原料の石油価格が高騰した。さらに
1985年から急激な円高が進み、アジア諸国からの繊維製品の輸入が増大した。
92年には国内需要に占める輸入比率は、綿製品で7割、合繊製品で3割に達して
いる。このため綿など天然繊維は、高級品へ重点を移行し、合繊など化学繊維
は、新素材の開発に力を入れている。このような市場環境の変動に対し、通産
省の「繊維ビジョン」を受けて、93年4月わが国最大規模の繊維産業支援セン
ターとして大阪府泉大津市に「大阪繊維リソースセンター」が発足し、情報化
の推進、人材の育成、ファッションショーの開催など、繊維産業の活性化に努
めている。
福井県では、全国の合成繊維織物の約30%が生産されており、隣の石川県とあ
わせて世界最大の合繊の産地となっている。従来の糸の10分の1から100分の1
という細い糸を使った新合繊ブームを作った。
アパレル業界でも、大阪、神戸、京都の各市にはそれぞれ、日本を代表するメ
ーカーが立地している。江戸時代からの伝統を持つ繊維問屋が集中している大
阪・船場には、最新流行のファッションを全国に発信するイトキン、レナウン、
オンワードなどの中堅メーカーがある。
神戸の人工島、ポートアイランドに本社を置く大手メーカー、ワールドは、情
報収集の拠点としてパリへ、生産拠点として上海に進出するなど世界的な展開
を図っている。
伝統的な着物の生産地である京都には、ブラジャーなど女性用下着のトップメ
ーカー、ワコールがある。アジア地域における売上げだけでも1994年度で350
億円に上っている。
敷物、カーテンなどの室内装飾分野では、京都の川島織物が高級絹織物の西陣
織の伝統技術を受け継ぎ、堅実なあゆみで大手企業として成長した。敷物業界
のメッカである大阪からは、住江織物が戦後の生活の洋風化の潮流の中、洗錬
されたデザインと確かな品質で、インテリア装飾製品の分野でわが国の代表的
企業に発展した。